アウトプット日記

読んだ本、文献、作業療法に関する勉強会・研修会のまとめ。個人的な。

「医療安全とコミュニケーション〜医療現場に求められる患者理解と的確な伝達力」

「医療安全とコミュニケーション〜医療現場に求められる患者理解と的確な伝達力」

日時:平成28年2月25日(木)19時〜20時30分

場所:あいれふ

講師:九州大学病院心療内科 臨床心理士 藤井悠子氏

テーマ:

・医療分野におけるコミュニケーションの重要性

・リスクを軽減するためのコミュニケーションと対策

・表面化しにくいリスク

 

まとめ:

 リスクの根本原因のひとつとしてのコミュニケーションの問題がある。①医療者間の不十分なコミュニケーションと、②患者・家族と医療者間の不十分なコミュニケーションである。医療者間の不十分なコミュニケーションの背景には伝達内容の解釈の間違い、権威的な相手に対する疑問や意見が言えない(権威勾配)、知識や情報が少ないために疑問や意見が言えない(情報格差)があり、コミュニケーションのギャップを埋めることが必要。患者や家族とのコミュニケーションでは患者や家族の背景に埋もれている心理的特性を読み取り、相手の理解度を評価して理解度に合わせた的確な表現を用いることが必要になる。表面化しにくいリスクに対して、意見の言いやすい職場風土の構築や患者や家族の不満・不安をいち早く察知できるようなスキルの獲得が求められる。

 

 

ポイント:

・患者の背景に埋もれている心理的特性と非言語的表現

不安:病気自体への不安、予後や将来への不安

抑うつ:身体面での喪失感(健康や身体機能)と心理社会的な喪失感(仕事や役割、対人関係)

依存や退行:子ども返り・幼少期の葛藤の表現

怒り:病気になったことへのやり場のない怒りや恨み(医療スタッフや家族にぶつけて処理)

混乱:気持ちの整理がつかない、コントロールできない

認知のゆがみ:選択的知覚・拡大解釈

失感情・失体感:心身の感覚に気づかない、感情や身体感覚が後で出てくる

→感情と身体症状(しぐさや態度など)との関連に着目し察することが大切

 

・患者の心を効果的に聴きとり受容する

傾聴:非言語的なメッセージのキャッチ。同じ目線で聴く。

共感:感情に焦点を当て、理解したことを言葉と態度で返す。

感情への対応:感情の表出を促し、感情への対応を共に考える。

否定的な感情のくみ取り:辛い、不安、寂しい、言いたいことが言えないなど

ボディランゲージを読み取る訓練:上半身は感情を表現する宝庫 顔、肩、胸、お腹など

注意の向け方のめりはり:違和感や胸騒ぎ

 

・患者、家族とのコミュニケーションで必要なこと

①患者の状態の評価(記憶障害、退行、不安、混乱、否認、回避、失感情傾向など)

②患者や家族の言動の受容と傾聴

③患者の期待と医療の現実との落差を埋める

④メリットとデメリットについての十分な説明

⑤専門用語や多義性のある表現を用いない

⑥伝え方と受け止め方(フレーミング効果) 例:成功率は90% or 失敗率は10%

⑦患者や家族の理解度の確認

⑧患者や家族の医療への参加を促すための患者教育

⑨医療における患者責任の重要性の教育

⑩メモや文書(手渡しと保存)

 

・患者から怒りを向けられた時

誘発因子:現実的な怒り

増幅因子:

①患者の心理(不安、混乱、期待、退行)

 耐性が低下(些細なことで不安定になりやすい)

②転移(退行:重要な他者との未解決の問題。過去の記憶、幼少期の経験など)

依存対象(特に医師)や利害関係者には怒りを抑制 権威勾配や遠慮

当たりやすい職種・人物 怒りを受け止めてもらえそうな職種と人物

患者の気持ちに耳を傾ける:傾聴の重要性

患者が否定的なことだけを述べる可能性があるが、患者にとっては表出した言葉が現実

患者の感情を受け止めることで怒りが表出するが、表出の場がない場合は不満や不信が蓄積

 →怒りの表出はチャンスと捉えてまず受け止める

怒りの表出を受け止めることで紛争に至る道筋をブロックする

 

・苦情や不満に対して

謝罪の仕方:不快な気持ちになられたことに対してはまず謝罪、次いで怒りを受容・傾聴

 →共感的な謝罪:不快な気持ちになったことに謝罪する

内容については冷静に事実確認

事実確認した上で謝罪する箇所は限定:事実と経緯に焦点を当てる

 →苦情や不満は活かしていくことで治療関係の改善や医療従事者の成長につながる