アウトプット日記

読んだ本、文献、作業療法に関する勉強会・研修会のまとめ。個人的な。

第17回認知療法研修会 ワークショップ4「身体疾患の認知行動療法」

f:id:katzace:20161123221454j:plain

平成28年11月23日(水) 9時〜12時

 

 主に精神疾患の患者さんを対象としている精神科医臨床心理士の先生が身体疾患の患者さんを対象にケアを行うときに、どのような点に注意してどのように対応するかを学んだ。ワークショップで挙げられていた身体疾患の例は癌と糖尿病。どちらも精神疾患ではない。しかし、癌は診断を受けてからの絶望感や抗がん剤治療の苦しみなど心理的負担も大きく、糖尿病は食生活や飲酒、運動、内服、インスリン自己注射などのセルフケア行動を主体的に継続していかなくてはならない。そのため、心理的支援が必要となる。ワークショップは以下のテーマで進んだ。第一部の身体疾患ケアにおける基本的コミュニケーションの内容について私見を加えて振り返る。

 

 第一部 身体疾患ケアにおける基本的コミュニケーション

 第二部 セルフケア行動への動機を引き出す

 第三部 身体疾患医療/チームにおける役割を考える

 

身体疾患の患者さんへの心理ケアの難しさは以下の三点にある

精神疾患ではない

・患者さんが心理支援を求めていない

・アウェイ感(臨床心理士としての)

 

 精神科のクリニックに自分から訪れる患者さんは心理支援を求めて来ている。しかし、身体疾患の患者さんはうつ病や強迫症障害などと診断されていないため、そもそも患者さん自身が心理支援を求めていない。そのような状況で臨床心理士が介入するのは当然難しい。また、身体疾患のケアを行っている多職種チームに専門外の臨床心理士が入ることはアウェイ感を招く。

 

 

 

支持と指示

 

 どのような疾患の患者さんをケアする場合でも必要なのはコミュニケーションである。ここでは「支持と指示」をうまく使い分けることの重要性が説明された。支持的態度で共感することで患者に安定を与えることはできるが、患者さんが依存的になる可能性がある。また、最初から指示的態度をとって問題解決につなげようとすると患者さんが拒否的になってしまい関係性がつくれない。最初は支持的態度で安定を与え、徐々に指示的態度に移行し問題解決につなげていく。患者さんの言葉を聴き気持ちを支えるが患者さんの代わりをすることはできない。

 

 

コミュニケーションのABC

 A:Ask(質問) 開かれた質問 どうしましたか?

 B:Be with the patient(ラポート形成) 共感的な言い切り 〜なんですね。

 C:Clinical Questions(臨床的な質問) 臨床的質問 〜なのでしょうか? 

 

 患者さんの言葉の中でどこに一番つらさを感じているのか、どんな気持ちでいるのかを感じて想像して特定することが重要である。いくら言葉で共感しても患者さんとの気持ちがずれて焦点が違っていれば違和感を生じ、共感不全を起こす。患者さんの言葉の中で焦点を絞ることができれば共感につながり、方向性を決定づけることができる。

 

 

共感の技法

・気持ちを聴く、言葉を添える

・言い換えてまとめる

・患者さんが使った言葉をなるべく活かす

・万能共感言葉を使う

 

 患者さんの言葉の中から気持ちを察し、それを言葉に出して返す。「不安なのですね」、「悲しいのですね」など、言い切りの形で添える。ただし、言い切りの形で添えた場合、患者さんの気持ちと違うこともあるため、「つらいですね」、「困りましたね」、「そうですよね」など気持ちを探るような言葉を使うと良い。さらに、患者さんが話したことを言い換えて繰り返したり、まとめたりしながら気持ちを言葉にして返す。また、患者さんが使った言葉はなるべくそのまま使うほうがいい。微妙な言葉の使い方で受け取り方が変わる。共感とは同じ気持ちになることではない。

 

 

共感の3側面

・情緒的

・認知的

・行動的

 

 他者と同じように感じるのは情緒的共感。他者の立場に立ち、客観的に理解するのは認知的共感。理解を行動で伝えるのは行動的共感。情緒的共感だけで患者さんの言葉を聴き続けると共感疲労を起こしてしまう。共感はスキルである。

 

 

共感しても乗ってこない場合は両価性・葛藤の可能性

 

 「〜しなくてはいけない」「〜してはいけない」という防衛が働きながら、でも「本当は〜したい」という願いや欲求がある。また、「〜したい」と思っていても「失敗したらどうしよう」という不安がある。このように相対する感情が存在したり、葛藤して感情が揺れたりしている場合もある。そのようなときは「迷っているのですね」「葛藤しているのですね」など相対する感情や葛藤そのものに共感する。患者さんの気持ちのどこに寄り添うかが重要である。

 

 

心のつらさ=ありたい自分とのギャップ

 

 心のつらさの原因は、自分や他者や将来がこうあってほしいと思う状態と現実の間にあるギャップである。理想を阻むものが存在する。望ましい支援を行うには、まず患者さんがどこに向かいたいと思っているかを知り、何が理想を阻んでいるのかを明らかにする必要がある。どこに向かいたいと思っているかは患者さんそれぞれ固有のものであり、それが価値観である。

 

 

価値観や意向を引き出す

 

 患者さんの価値観や意向を引き出すにはどうするか。過去、現在、未来の視点から引き出すと良い。今まで行ってきた仕事や趣味、家族などの過去、好きなものや行うのが楽しいことなどの現在、今後のことや先の心配などの未来について。患者さんの状態や疾患の時期に応じて使い分ける。

 

 

対話の閉じ方

・問題が特定されて、その解決策につながる

・ケアを続けることを保証する

・ねぎらい、頑張りを支える、応援

 

 対話を閉じる、会話を収束するにはどうするか。1回の対話で問題を特定し解決に結びつくことが望ましいが必ずしもそうではない。医療者自身の助言や指導によって解決する場合もあるし、あるいは治療者だけで解決できないような問題の場合は、答えを見つけられるところにつなげることも必要である。その日に解決まで至らない場合でも、その日に患者さんが話してくれたことに感謝し、ケアを続けていくことを保証する。人としてねぎらったり、頑張りを支えたり、応援したりすることは当然のことであるし、そのような気持ちを伝えても良い。

 

 

まとめ

 身体疾患の患者さんのケアを行うときに重要なのは気持ちに寄り添い、価値観や意向を引き出すこと。気持ちに寄り添うには共感をスキルとして用いる。患者さんがどこに一番つらさを感じているか察することが共感につながり、ケアの方向性を決定付けることになる。